英雄〈上〉 (新潮文庫) ブライアン フリーマントル Brian Freemantle 松本 剛史 9784102165379

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フリーマントルが作り出した主人公としては、やはり『消されかけた男』を初めとする作品の主人公、英国諜報部員チャーリー・マフィンの姿が強く心に残っている。風采のあがらない人物であり、人間的にも数々の欠点を抱えているにもかかわらず、そして決して華々しい活躍をするわけでもないのに、マフィンは読者の心をとらえて離さぬ人物だった。そして最近のフリーマントルがわれわれの前に差し出すヒーローは、ロシアの捜査官ダニーロフ、アメリカFBI捜査官カウリーのコンビである。前作『猟鬼』でコンビを組んだ2人が、今度はロシア・マフィアと虚々実々の駆け引きを行い、ついには勝利を収めるという物語で、舞台はアメリカ、ロシア、シチリアにまで広がり、派手な銃撃戦あり、あるいは例によってロシア政府内部の腐敗ありと、国際謀略小説の要素をふんだんに盛り込んだものである。しかも物語の背後には、ゴルバチョフ時代の共産党の陰謀という歴史事実も含まれていて、相変わらずわれわれの睡眠時間を削るに十分である。だがこのシリーズでやはり大きな魅力となるのは、2人のヒーローの人間性で、今回はダニーロフの家庭生活と不倫とが物語の低奏音として奏でられ、それがけっきょく本筋と見事に結び合って悲劇的音楽を生み出すことになる。これで当分、マフィンのいない淋しさをなんとかしのげそうだ。(小林章夫)
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