本作は1969年7月5日ロンドンはハイドパークにおけるフリーコンサートを収録している。有名公演なだけにこれまで数多くのコレクターズ・アイテムを排出してきた公演であるが、いずれも何らかの問題を内包しており、音源も映像も、カット具合や編集があまりに複雑でこれまで決定盤と思しきタイトルは皆無であった。本作が初めて内容及び音質共に決定盤ともいえる、当日の全貌に最も近いタイトルになるのではないかと思う。
公式やコレクターズ・アイテムを問わず、既出の音源や映像の問題点はいくつも挙げられる。グラナダTVの撮影クルーがコンサートを収録したが、撮影時の不備が多く53分にまとめられた映像の中で演奏シーンは半分ほどしか使われなかった。公式で過去何度もリリースされているが、ピッチが遅いものが多かった。FMで放送されたサウンドボード音源も不完全でモノラルだった。良質なオーディエンス録音も残されているがコンサートの途中までしかない。ドキュメンタリー映像で使われたものは編集箇所が多くインタビューが被ったりしていた。さらに言えば、2006年のブルーレイの特典映像にBロールの映像が収録されていたが大部分が無音声だった。このように、いずれも中途半端な内容で、いずれも何らかの問題を抱えていた。
本作のCD部分は、一部を除きリアル・ステレオで収録している。耳障りな音質だったFM音源の音質が飛躍的に向上。そしてコンサートを可能な限りフルで曲順どおりに収録。「Love In Vain」もギターソロでインタビューが被らない完全リアル・ステレオ音源で収録している。そして「Satisfaction」も・・・これは実際に聴いてみて欲しい。そもそもであるが、部分的にでも全編通してでも、ここまで音が良いハイドパークは皆無であった。
本作のDVD部分は、あくまで「ライブ映像」として楽しめるように映像と音素材を、正しいピッチ、曲順で再構築する事に主眼を置いて制作されている。AIフレーム補完技術による滑らかな映像で収録。演奏シーンと音が合っていなかった箇所も可能な限り合うように細かく補正。「I'm Yours And I'm Hers」「Honkey Tonk Women」「Midnight Rambler」「Satisfaction」はこれまでのものより演奏シーンを長く収録。Bロールやニュース映像素材を最大限活用し、公式とは異なるアングルを中心に収録。完全にミック中心だったオフィシャルと比べて、他のメンバーの動きがより分かるアングルを中心に使用している。「悪魔を憐れむ歌」を初めて曲の最後まで完全収録。「悪魔を憐れむ歌」終演後も会場の様子を延々収録(BGMに本編に入れられなかった"Down Home Girl"を収録している)。さらに加えるならば、前半でステージ下手側のカメラが露光不良で画面半分が黄色く焼けてしまっているのも有名な話であるが、それも可能な限り自然に見えるように補正してある。
ハイドパークと言えば「演奏が粗い」で有名だったが、正しいピッチ、良好な音質と適切なバランスで改めて鑑賞すると、演奏自体は十分に気合の入ったライブだったことが分かる。チューニングが狂いまくるキースのギターと、キースに遠慮しまくっている控えめ100%なミック・テイラー。二人のギターのアンサンブルを本作のリアル・ステレオで聴くとより違いが分かる。コンサートから半世紀以上経過して、音と映像もここに決定盤とも言うべき内容と音質で収録したのが本作である。美しいピクチャー・ディスク仕様の永久保存がっちりプレス盤。