英国ProAc(プロアック)社の小型2ウェイ・ブックシェルフ、Tablette 50です。同じシリアル番号を持つ左右のペアで、製造は1990年代後半〜2000年代初め頃と思われます。ProAc社の最初のスピーカーであるTabletteから始まる、ブランドを象徴するTabletteシリーズの中の一台です。
■ 状態
動作・外観ともに良好な美品です。
・ 再生動作については、出品に際してあらためてアンプに接続し、左右とも正常に再生できていることを確認しました。
・ SEAS 19 TFF(19mmソフトドームツイーター)については、左右とも、磁気ギャップの磁性流体を交換済みです。
・ ユニットに凹みや傷はありません。
・ バイワイヤ端子にはスピーカーケーブルを流用したジャンパーが付いています。
・ サランネットに破れや汚れはありません。
■ 主な仕様など
・ 型名 : TABLETTE 50
・ インピーダンス : 8Ω
・ 推奨アンプ出力 : 20W~100W(音楽信号)
・ サイズ : H279mm x W165mm x D229mm / 6.0kg
英国のProAc社は、創業者のStewart Tyler氏の強いイニシアティブに支えられた、妥協のない音楽再生を目指すハイエンド志向のスピーカーメーカーです。もともとCelefという中級機のメーカーを営んでいたTyler氏は、小型ながら低域の伸びと色付けのない中域を持つ妥協のないスピーカーを作るため、1970年代末にProAc社を設立しました。本出品のTablette 50の先祖と言える初代のTabletteは、1979年にProAc社の最初のスピーカーとして発売されました。小型なサイズから生まれる低域の伸びと広大に広がる音場は、当時かなり話題になったようです。
その後、ProAc社はResponseシリーズなどのよりハイエンド寄りのモニタースピーカーの開発に着手するとともに、最初の製品であり看板モデルでもあったTabletteについては常に改良を続け、10世代近くにわたって改良が重ねられました。Tablette 50は初代の思想を受け継ぎながらもウーファーを5インチ級へと大きくし、低域の量感と安定感を一段伸ばした世代にあたります。小さな箱がサイズを超えた音場を描く、ProAcらしいスピーカーだと思います。
近年、本出品のTablette 50の魅力をあらためて裏付ける出来事がありました。英国に、スピーカー製造の老舗であるFalcon Acousticsという会社があります。KEF社がLS3/5a用ユニットの製造から撤退した後、LS3/5a用のスピーカーユニットのオフィシャルな製造元となったのはFalcon Acoustics社でした。そんなFalcon社は、2021年にProAc創業者のStewart Tylerが逝去した後、ProAc社を代表する製品の一つであったTablette 50へのオマージュモデルとして外観のそっくりなF50の開発・販売を発表しました。F50は、北米限定のようですが、現在も販売が継続されているようです。
https://www.falconacoustics.co.uk/falcon-acoustics-f50.html
Tylerさんがいくらカリスマ性のあるエンジニアだったとはいえ、その逝去を悼んで他社であるFalcon社がオマージュモデルを作る、と言うのは相当異例だったのではないでしょうか。これには、当時のFalcon社の主任設計者がProAc社でキャリアをスタートさせた人物であり、彼が Tylerさんとともに最初に手掛けたのがTablette 50だった、という理由もあったようです。
■ 整備内容について
本スピーカーの高域ユニットは、ノルウェーのSEAS社の19mmソフトドームツイーター「19 TFF」で、Tablette 50にはギャップに磁性流体が充填されたタイプが採用されています。磁性流体は、ボイスコイルの冷却やコイルの振動の適切なダンピングなどを目的に充填されますが、製造から30年ほど経過したユニットでは、磁性流体のドライアップや固化といった経年劣化が音質に影響することが知られています。
本出品のTablette 50は、中古品購入直後の音は高域を中心に精彩を欠くものでした。ユニットを取り外し磁気回路を外してみると、やはり磁性流体がかなり少なくなっていました。
清掃前という写真が、片側のユニットの整備前の磁気ギャップの様子です。ギャップの右側には磁性流体が回っておらず、ギャップの底が見える状態になっているのがわかります。
清掃後という写真は、コーヒーフィルターなどの紙片で古い磁性流体を除去した後のギャップの様子です。
充填後という写真は、新しい磁性流体を充填した直後の様子です。磁性流体は、スピーカー用として実績のある日本のフェローテック社の比較的粘度の低いAPG L11を、約0.1mL~0.15mLほど注入しています。
測定などはしていないので個人の感想になりますが、磁性流体の交換後、音質が聞き違えるように蘇って聴こえたのは言うまでもありません。
最近では、磁性流体以外の冷却手法の発達のため磁性流体なしのツイーターが主流になっているかと思います。一方、1990年代に作られたTablette 50などのツイーターではかなりの確率で磁性流体が使われており、すでに20~30年も経っている場合は製造当初の性能を維持していないことがほとんどかと思います。
磁性流体交換についてはweb上にもあまり整理された情報がなく、ビンテージのスピーカーを楽しむ上での大きな障害になっているように思います。清掃され磁性流体が再充填され本来の音質を取り戻した本出品個体で、ProAc社のTaylerさんが作り込み、そして他社製品のオマージュモデルの販売に踏み切ったFalcon社が聴いた、そんなTablette 50の音をお楽しみいただければと思います。
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