巨大な鯨を舞台に繰り広げられる奇想天外な魚介の仮装踊り――歌麿の知られざる戯画的世界を思わせる、極めて興味深い木版浮世絵です。
江戸時代を代表する浮世絵師、喜多川歌麿の落款が認められる、珍しい図柄の木版画をご紹介いたします。
歌麿といえば優美な美人画で知られていますが、本作には、その一般的なイメージとは大きく異なる、滑稽味と奇想にあふれた世界が描かれています。
画面を大胆に横切る巨大な黒い鯨。その周囲には、蛸、鯛を思わせる魚、細長い魚などを頭に載せた人物たちが登場し、思い思いの姿態で踊り、あるいは身振りを見せています。
画面上部には勢いよく弧を描く波が配され、海中の生き物たちが人間に姿を変え、賑やかな芝居を演じているかのようです。
画中には「後見」と読める文字と人名らしき記載があり、芝居や踊り、あるいは何らかの見世物・余興との関係をうかがわせます。
「後見」は、伝統芸能において演者を補佐し、舞台進行を支える役割を意味することから、本作も何らかの演芸的な趣向を描いた作品である可能性が考えられます。
また、画面上部には「七里……大鯨」と読める題字があり、鎌倉の七里ガ浜と鯨を結びつけた作品とも推測されます。ただし、題字には判読困難な箇所があり、正式な画題および演目については未詳です。
美人画とは一線を画す奇抜な題材、ユーモラスな人物表現、魚介を擬人化したかのような不思議な演出など、江戸の遊戯文化や戯画、見世物の世界を考えるうえでも興味をそそられる一枚です。
現時点では同一図柄の確実な所蔵例や文献記載を確認できておらず、制作年代、摺りの時期、正確な画題などについては今後の調査を要します。
歌麿研究、江戸の風俗・芸能史、鯨文化、浮世絵戯画などに関心をお持ちの方にも、ぜひご注目いただきたい作品です。
作者:喜多川歌麿画(落款による)
画題:「七里ガ浜の大鯨」(仮題・正式名称未詳)
技法:木版画
サイズ:縦24.7cm × 横19.3cm(若干の誤差はご容赦ください)
“よみネコ”くんは、身長12cm。大きさの参考になさってください。 |