明治時代を代表する浮世絵師・楊洲周延(ようしゅう ちかのぶ、1838~1912)による、明治12年(1879)の木版浮世絵「高貴乗馬之図」大判錦絵三枚続です。
満開の桜が咲き誇る宮廷風の庭園を舞台に、華麗な洋装の騎馬人物と、それを見守る色鮮やかな和装の女性たちを描いた、明治初期ならではの壮麗な作品です。
楊洲周延は、歌川国芳、三代歌川豊国、豊原国周らに学んだ浮世絵師で、美人画や宮廷風俗画を得意としました。その経歴には興味深い一面があります。周延はもともと高田藩士であり、幕末には旧幕府軍の一員として上野戦争や箱館戦争に参加した人物でした。維新後、刀を絵筆に持ち替え、明治10年頃から本格的に絵師として活躍。かつて旧幕府方として戦った絵師が、明治の宮廷文化や新時代の風俗を華麗な錦絵に描いたという経歴は、周延の作品を鑑賞するうえで大変興味深いものです。
本作品の中央には、金色の肩章と勲章を思わせる装飾、羽根飾りの付いた帽子を身に着け、黒馬を駆る高貴な人物が描かれています。左側にも華やかな礼装姿の騎馬人物、さらに右奥には随行する騎馬人物たちが続きます。背景には菊花を思わせる大きな紋様を配した紫色の幕と紅白の幔幕が張り巡らされ、桜の花と相まって、格調高い祝祭的な雰囲気を生み出しています。
とりわけ魅力的なのは、勇壮な騎馬の場面と、手前に広がる優美な女性たちの姿との対比です。赤を基調とした華麗な敷物の上に、牡丹や菊などの花模様をあしらった豪華な着物姿の女性たちが集い、騎馬人物の姿を見つめています。洋風の軍装と伝統的な和装、馬の力強い動きと女性たちの繊細なしぐさを一つの画面に組み合わせた構成は、周延が得意とした美人画と時事・風俗画の特色をよく表しています。
明治初期は、宮廷においても西洋式の服装や儀礼が次第に取り入れられ、日本社会が大きく変貌していった時代でした。本作品の洋装騎馬人物は、そうした文明開化の象徴的な姿として描かれています。一方、女性たちは伝統的な日本髪と鮮やかな着物をまとっており、新旧の文化が共存していた当時の様子を視覚的に伝えています。錦絵が人々に新しい時代の姿を知らせる重要な視覚メディアであったことを考えると、本図は美術作品としてだけでなく、明治の社会や文化を読み解く歴史資料としても興味深い一作です。
三枚を横に並べることで、桜花の下を進む騎馬人物の躍動感と、宮廷風の華やかな世界が大きく広がります。紫、朱赤、金色を思わせる黄色、深い緑などの鮮烈な配色、衣装の緻密な文様、馬の筋肉や毛並みの表現など、細部まで見どころの多い作品です。なお、本図と同題の「高貴乗馬之図」は、仙台市博物館の展覧会資料にも掲載されています。
一枚のサイズは、縦37cm × 横25cm(若干の誤差はご容赦ください)。
“よみネコ”くんは、身長12cm。大きさの参考になさってください。 |