永井荷風●「ひとりごと」●荷風書屋秘稿・海賊版●「四畳半襖の下張」・「問はずがたり」●昭和十九年十二月脱稿●谷崎潤一郎と荷風

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●荷風散人(永井荷風)、「ひとりごと」、荷風書屋秘稿、「四畳半襖の下張」と同様、海賊版の扱いで印刷所・版元・発行日、定価などの記載はない。これは後に改稿されて昭和二十一年三月に「問はずがたり」として出版される。所謂上質なポルノ小説である。和紙装、本文袋綴じ、夫婦箱入り、約19×14cm

●荷風はこの「ひとりごと」の脱稿直後、昭和二十年三月の東京大空襲で「偏奇館」を失い、這々の体で岡山へ逃避する。しかし8月6日に広島に原爆が投下され、恐れおののいた荷風は、勝山に疎開していた谷崎潤一郎のもとを訪れる。それが8月13日。しかし半ば庇護を求めたこの訪問はすぐに切り上げられ、15日には岡山に戻っている。

●その8月15日は、まさしく天皇が無条件降伏を受け入れた「玉音放送」のあった日である。谷崎は午前中から荷風の「ひとりごと」の原稿を読んでいたが、玉音放送があったらしいと聞いて、午後3時のニュースで確認し「涙滂沱」となる。

●一方荷風は岡山の寄宿先に戻って初めてこの話を聞き、「恰も好し(あたかもよし)」と大喜び、鶏と葡萄酒で祝杯をあげる勢いである。この二人の反応の違いが、両者のアイデンティティのあり方に深く関わっている。関西の大店の大人然とした谷崎に対し、金はあっても粗末な恰好をいとわぬヒッピーまがいの荷風のどちらに共感するだろうか。
何より、この決定的な日に谷崎が、荷風の「ひとりごと」を読んでいたというのが暗示的である。
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